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お菜津はそれを承ると、素早く踵を返し、濃姫の御座所へと大急ぎで駆けて行った。
「──…左様か。やはり殿は、勝三郎殿の弓をお取り上げにはなられなかったのじゃな?」
「はい。一度お手に取られた後“思うたより使い勝手が悪い故、もういらぬ”と申されて、早々に勝三郎殿へご返上なされたそうにございます」
御座所の前庭に設けられた広い縁台の上で、悠長にも生け花に興じる濃姫の横顔に、お菜津は平伏の姿勢で申し伝えた。
「それで、勝三郎殿に頼んでおいた件は如何であった?」
「それも、お方様がお考えになられた通りにございました。
ここ数日、殿は長年仕えて参られた側近方に対して、密かに献上品を迫っておいででした。
父母の御形見から家畜、土地財産に至るまで、その者らにとって特に大事とする物を」
「けれど殿は、そのいずれの品も受け取らず、そのまま本人たちに返上している……そうであろう?」
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濃姫は花の茎を切り落としながら、ふふっと微笑(わら)った。
姫の傍らに控えている三保野は、話について行けてないのか頻繁に首を捻っている。
「いったいどういう事でございましょう? 献上品を求めるだけ求めて、どれも受け取らぬとは……何故殿は左様な真似を?」
「分からぬのか三保野。殿が本当に求めていたのは、物ではない。心じゃ」
「心?」
「忠心、服従心、誠心…。私たちの忠義が揺るぎなきものか否か、お試しになられたという事よ。
誰もが一つは持っているであろう、最も大切な物を使こうてな」
三保野は思わずあっとなる。
「でしたら、姫様に急に短刀を差し出せと仰せになられたのも!?」
「きっとこの短刀を使えば、いざという時に私が、迷わず殿を選ぶか、はたまた美濃を選ぶのか、見定められると思うたのであろう」
だが、三保野にはまだ解せない事だらけである。
「されど姫様は、既に殿への忠誠を誓われた御身。お味方だと分かっている姫様に、どうして今更そのような真似を?」
「それが殿の恐ろしいところなのじゃ。例え味方であっても、ご油断召されず、事あらば徹底して疑ってかかる。
そうしなければ、裏切り、変心が常たる今の世を生き抜く事は到底不可能だと、殿はよう分かっておられるのです。
…それに、あのお方が目指されるのは天下。先々に待ち構える智将方との駆引きに備えて、今からご自分の目を養おうとしているのやも知れぬ」
淡々と、だが確信めいた口調で濃姫は告げた。
すると三保野は、呆れとも感心とも取れぬ、緩く長い嘆息を漏らした。
「それに致しても、各々が持つ大切な物を差し出すか否かで忠誠心を確かめるとは──。殿も随分と子供じみた真似をなされますな」
「子供じみた?」
三保野の呟きに、濃姫はほほっと上品な笑い声を響かせる。
「何が可笑しいのです!? 大切な物を渡すかどうかで忠義の度合いを確認するなど、童でも考え付きそうな事ではございませぬか」
「ではそなた、私が殿に短刀を差し出せと言われて悩んでいる時、殿が左様なお考えをなさっていた事に少しでも気付いたか?」
「それは……確かに気付きませんでしたが…」
「何故気付かなかったのか、その理由が分かるか?」
「何故と言われましても、考えが及ばなかったと申しましょうか、特に変わった事だとは思いませなんだ故」
「何故変わった事だと思わなかったのです?」
「それは無論、殿はあのようなご気性のお方です故、妙な事を言い出すのはいつもの事と──」